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SPECIAL INTERVIEWKYOBUN THEATER FESTIVAL

[教文演劇フェスティバル2022
連携企画]

🄫TOWA

スペシャルインタビュー

鴻上 尚史
KOKAMI Shoji

20分の短編はゲーム性が高くて、
競うことに特化した感じがいいと思う

今年の教文短編演劇祭で、2019年に引き続きゲスト審査員として登場する鴻上尚史さん。教文短編演劇祭の印象や審査員としての面白さ、短編演劇祭が街にあることの意味などいろいろ語っていただきました。

(聞き手・構成:松田仁央)

――鴻上さんに初めてゲスト審査員をお願いした2018年の教文短編演劇祭は北海道胆振東部地震のため中止になってしまったので、2019年が審査員として参加していただいた初の年になります。出場作品から地域性のようなものなど感じることはありましたか?

鴻上:うーん、ないね。地域性って、今はあんまりないと思うんだよなあ。今年8月に沖縄の「劇琉王」という短編演劇祭に審査員として行ったんだけど、沖縄だから何かっていうのもなかったし、内容的に(地域性は)あんまりないと思います。

――教文短編演劇祭の印象を教えてください。

鴻上:とにかく盛り上げようとしている感じはすごく伝わるよね。それこそロビーに審査員のパネルを作ってくれたりして、みんながワイワイ楽しそうにしている。スタッフが楽しそうかどうかというのはすごく大事なことで、それがお客さんにも伝わっていくというか。教文はスタッフがとにかく楽しくやってるなという感じがすごくします。それがお客さんにも伝わっている感じがする。

――審査員としての面白さは、どんなところですか?

鴻上:未来の才能に出会えるところかな。僕は2019年の教文短編演劇祭で(星くずロンリネスの)上田君と出会ったのは本当にびっくりしたし、空宙空地の(作・演出の)関戸さんの新作に出会えたのも面白いことだよね。あとはやっぱり一生懸命つくっているものは面白いし、一般的なプロと違う視点というか、プロにはつくれないものがあったりもするし、いろんな意味で面白いです。

――観客としては、2019年の鴻上さんのコメントから「そこを観るんだ!」という発見もあって楽しかったです。

鴻上:そういうコメントをできたら嬉しいなと思っています。観客にとってもそうだし、つくり手にとっても「あそこをそういう風にしておけば、もっと面白くなったんだ!」と気づいてもらえるようなコメントをしなきゃいけないなと。でも、審査員として「言うことはありません!見事!」となるのが理想で、そういう風に言えたらやっぱり幸せだよね。でもね、観客からすると「私だけの一本を観る幸福」というのもあるからね。審査員がどんなにボロクソに言おうが、他の観客からの点数がどんなに低かろうが、私はこれが一番なんだと。それはやっぱり観客の幸福じゃないかな。

――確かに教文短編演劇祭でも、投票結果に対してあとからSNS等で意見が飛び交う場面もあって、過去にはそれが結構熱い年もありました。

鴻上:そうやって周りを熱くするのは、作品にパワーがあるってことだよね。僕は審査員だから、「個人的にこれが大好きだけど、相対的に見るとこれを一位に推してはいけない」という風に脳内でブレーキをかけるけど、観客は逆に「自分のこれ!」という作品を偏愛する喜びを味わえばいいんじゃないかな。

――教文短編演劇祭はその都度マイナーチェンジを加えながらも、審査員と観客の投票で決めるという条件で参加劇団が競い合い、切磋琢磨する場所であり続けてきました。こういう形で競い合う演劇発表の場が街にあることについて、どう思いますか?

鴻上:全然いいんじゃない?いいし、それがもっと話題になんなきゃダメだと思う。優勝したら何をくれるんだっけ?

――優勝特典は、チャンピオンベルトと翌年度の小ホールでの上演権(※)です。

鴻上:やっぱりチャンピオンベルトが北海道を出ることについて、スタッフと観客が悔しがんなきゃダメだよね。名古屋に持って行かれること(2019年の優勝は名古屋の空宙空地)の悔しさって言うかさ。チャンピオンベルトが本州に渡ることの残念さみたいなのが、最後客席から漏れたりすると楽しいよね。それでも客観的に面白いものは面白いんだから、本州に渡ってもしょうがないだろうということだね。これがね、2時間の芝居で競うってことになってくると、ちょっとシリアスになるというか、作品に順番なんかつけられるんですかという風になるんだけど。20分っていうのはある種ゲーム性がすごく高いわけで、その中で才能と演技力を競うということは、逆に競い合うことに特化してる感じがあっていいと思う。教文はわりと地元を巻き込んでる感じがするので、これからもっとゲーム性を強めて、地元民をさらに巻き込んでいけるといいんじゃないかな。

(※)2023年1月〜2024年9月30日までの長期休館のため、2022年度の優勝特典はチャンピオンベルトと賞金10万円。

――地元民を巻き込むというのは具体的にどんなことでしょう?

鴻上:観客がいっぱい来ること。演劇とか全然やってない人が「1年に1回これを観ることが私は楽しみなんだ」という風に、演劇関係ではない人たちの間にどれぐらい定着できるか。そのためには勝つ勝たないとか、チャンピオンベルトみたいな一般人向けの仕掛けはあった方がいいとすごく思う。

――教文の情報誌では新型コロナ感染症の流行以降、普段観客から見えないところで公演を支えているスタッフに光を当てたり、各劇団の座談会などを実施し、コロナ禍における札幌の演劇関係者の願いを読者と共有する試みを続けてきました。厳しい感染対策を行いながら、それでも感染者が出て公演中止になる可能性もあるなどきつい状況が続きますが、そのような中でこの2年間鴻上さんがどのようなことを考えてきたのかお聞かせください。

鴻上:まあ何を考えてきたかっていうか...この2年間は、演劇関係者にとっては本当に冬の時代だったよね。これだけ演劇というものが生活と結びついていなかったんだということを、演劇関係者は突きつけられた2年間だったと思います。それは休業補償と自粛要請がセットだということをいわゆる飲食業や冠婚葬祭業などの人が言う反応と、演劇関係者が言うことのバッシングっていうのは凄まじいものがあって、僕なんかも本当にこの2年間何回も心が折れたわけで...。世間から見ると演劇がこんなに影響や存在が薄かったんだっていうことを教えてくれたのがコロナで、だからこそ僕らは何をしなきゃいけないかと言うと、観客を増やしていくこともそうだし、演劇は「不要不急」とよく言われたけど、不急じゃないかもしれないけど不要なものではないということをどれだけ一般の人に伝えられるか。そのことを突きつけられた2年間だったなあと思います。

――演フェスも感染拡大防止の観点から2年間休止していて、来年は教文が大規模改修工事のために休館しているので、このタイミングで復活できて良かったなと思います。演フェスは1985年から、短編演劇祭は2008年から開催している息の長い演劇祭ですが、今後に期待することなどありましたらお願いします。

鴻上:短編演劇祭は2008年からなんですね。僕は呼ばれるのが3回目なんですけど、2008年からやってるのに3回しか呼んでもらってないのはなぜでしょう(笑)?こんなに北海道が好きだ好きだと言っている僕が、なぜそんなに呼ばれてないんでしょう?

教文:補足しますと、当初は街のお祭りということで出場劇団は札幌の劇団が中心で、審査員も基本的に札幌の演劇関係者にお願いしていました。徐々に短編演劇祭の認知度が全国的に高まっていくにつれて、2015年頃から道外からの応募も少しずつ増え、2018年に次の10年間を見据えて仕組みを大きく変更した経緯があります。その中で審査員の幅も広げようと鴻上さんに初めてお願いし、それ以降3回連続でお願いしています。

鴻上:なるほど、よく分かりました。失礼しました(笑)毎年続けていくことで広がっていくので、来年お休みになるのは惜しいですね。今後に期待することとしては、より多くのお客さんと団体が集まる、より大きなお祭りになっていくことが大切なことだと思います。コロナ禍で配信も増えたけど、演劇はやっぱり生を同じ空間で観ることがどれだけ大事かということを、お客さんに経験してもらいたい。マスクでどんどんコミュニケーションが遠くなっていく中で、生のパフォーマンスを観るということが生きていくためにどれだけ必要かということを、演劇人が宣伝するというよりは、お互いが噛みしめられたらすごくいいなと思います。

教文:ありがとうございます。2018年以降も出場劇団が主役であることに変わりはないのですが、審査員としていろいろな方が来てくださるようになって、出場側としても「観客だけではなく、こういう審査員にも観られるんだ」と、良い意味で凄くピリッとした印象があります。動員に関しても、2018年は初めてチケットが完売しました。それまで大ホールでやるなんて考えられなかったのですが、2019年以降も大ホールでの開催で、おそらく全国の演劇祭の中で会場規模としては一番大きいんじゃないかなと思えるようになりました。それは審査員の皆様もそうですし、出場される劇団、そして何より多くのお客さんが SNS 上で告知協力をしてくださることが大きくて、自分たちスタッフとしてもありがたいことだと思っています。

――では最後に、札幌の演劇人と観客へ向けてメッセージをお願いします。

鴻上:教文短編演劇祭のような演劇祭が日本中に割とたくさんあると思っている人がいるかもしれないけど、実はそんなにないんだよね。みんながワイワイと20分の演劇を持ち寄って年に1回お祭りをするというのは、そういうのを持ちたくても持てない地域がほとんどで。だから、それがどれだけ素敵で、どれだけ奇跡なことをしているかということや、そういうものが街にあるんだということをお客さんにも思ってもらえると。こういう演劇祭が街にあることの幸福をみんなで喜び合って、だからこそ大切に育てていってほしいなと思います。

プロフィール

鴻上 尚史
[ 作家・演出家 ]

1981年に劇団「第三舞台」を結成し、作・演出を手がける。現在はプロデュースユニット「KOKAMI@network」 と若手俳優を集め旗揚げした「虚構の劇団」での作・演出を中心に活動。舞台公演の他には、エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、ラジオ・パーソナリティ、映画監督など幅広く活動している。

  • 教文演劇フェスティバル2022

    媒体三ツ巴連携プロジェクト

    2019年以来、約3年ぶりに開催される教文演劇フェスティバル「短編演劇祭」。全国各地から集まる団体がテーマ「ユウ」を題材とした20分の短編作品で競い合う本イベントは例年大きな盛り上がりを見せております。
    今回は教文情報誌楽59号特集、教文演フェス公式WEBサイト、そして札幌演劇情報サイト“d-SAP”の3媒体が連携したコンテンツを制作いたしました。

  • 情報誌「楽」59号
    短編演劇祭出場劇団による座談会

  • 札幌演劇情報サイト d-SAP
    演フェス事務局インタビュー